2009年6月20日土曜日

1-2

陽が地平線から姿を現そうとしていた。
仄暗いビルの隙間で、“エレ”は瞼を開いた。

視界の片隅、彼女の人工の眼球の丁度右下に、「観客」たちが集まり始めていた。

「うるさい」

声に出してみる。
自分の幼い発声が余計いらだちを募らせた。

統治歴5065年、10月20日。
今日の客の入りも上々だった。
自分の視覚野に大勢の人間たちがログインしているのだ。

今日、ハンス=ベルメール社の大規模作戦が実行される。
相手は自分と同じ気の毒な少女たち。

こんな殺人ショーのために、なぜこんなヒラヒラしたお仕着せを身に纏わねばならないのか。
このフリルの切れ端一枚で、大勢の難民が救える値段がするだろう。
いや、この社会においては、彼女もまた莫大な値段がついている。

エレは自分もまたこのフリルと同じように装飾品であり消耗品であるのだと実感した。

自分もまた、いつかは相手の放った徹甲弾になぎ払われる日がくる。
それが早いか遅いかの違いだけ。
それを少しでも遅らすために、今日もまた殺すのだ。同じ境遇の相手を。

彼女は自分の傍らに鎮座する鉄塊を見上げた。
30mm機関砲。冗談みたいに凶悪な外見の兵器を、今日もまた担がねばならない。(それこそ冗談のような図だ)
支給された砲弾は連続掃射で3分間しか持たない。
そのあとは肉弾戦だ。

軀中に仕込まれた高周波ブレードはあらゆる構造物をたやすく切り裂くはずだった。相手方の装甲服を除いて。
このゴージャスな衣装はまた、その頑丈さにも莫大な金額がかけられているのだった。

自分は奏者なのだ。
この冗談のような外見の、冗談のような性能を持つ兵器たちの。
エレは自分に言い聞かせた。
そしてこの馬鹿騒ぎは奏者の死によってのみ、一時的な静寂を迎える。
自分は死ぬまで演奏を続けるだけ。

立ち上がると風が頬をくすぐった。
今日も暑くなりそうだった。

0 件のコメント:

コメントを投稿