灼けたコンクリートを踏み拉くロリータ靴は見た目にも重く、搭載した機動ユニットのエンジンを起動しない今、まさに足枷を思わせた。其れでも自分を見詰める無数の視線を思えば“ラヴィ”の足取りは殊更優雅なものになる。否、其れは足取りだけでなく、荒んだビル風に遊ぶドレスの裾さばき、光の軌跡描くブロンドの髪をかき上げる仕草から、口元に湛えた微笑まで。
やっと傾き始めた太陽の寄越す幾分棘のある陽射し。其れを遮る純白の日傘の内側に表示されたレーダーに“ラヴィ”は目を遣る。自分を中心に展開する幾つかの点の配置を確認した。下準備は、終了だ。
やがてレーダーに映し出される敵影が此処が戦場であることを思い出させる。無論、彼女が失念する筈はなく、彼女と視覚を共有している観客達に、と云う話。
急速に迫る敵影をレーダーのみで確かめて、日傘を少し、其方へ向けた。其れで正解。雨と降り注ぐ砲弾がコンクリートを易く穿って砂塵を巻き上げる。けれど特殊装甲で誂えた日傘の影に身を隠す“ラヴィ”の細い眉が歪むのは、砂埃が服を汚すのを厭うただけのこと。
「散々待たせて、随分な御挨拶ね」
共有する意識下に語りかけたところで返答は途切れぬ掃射のみ。生死が掛かって居るのだから、余裕などなくて当然。
防戦に徹して居ると思われることが癪で、応射を1、2発。相手へと向けた石突の先から放った熱線は並の装甲をものともしない。其れを知らしめる為の威嚇は思った以上に意を得たろうか。倒壊したビルの影に隠れた敵の姿を、薄れぬ粉塵の向こうにシルエットだけで確認した。敵が間合いを取るのをレーダーは告げた。
「逃げるの?わたし急いでいるの……どうしても御茶の時間までに帰りたいのよ」
首に掛けた懐中時計はじきに3時を刻む。操作をすれば何処かから無数に響く電子音は、聞く者に危険を知らせる類の其れ。
相手の意識の動揺が手に取る様に伝わって、“ラヴィ”の喉を愉悦の音に震わせた。カウントダウン。此の戦いの始まる前に此のフィールドに“ラヴィ”の仕掛けたデストラップが時を刻み始める。レーダーの上で其れを表す定点は易く十を数えて、此処に留まること即ち死。
“ラヴィ”自身は此の檻の鍵を持って居るにしても。
「でも、折角だから其れまでは鬼ごっこでもしましょうか?」
全て彼女の掌の上。
「ね、鬼に捕まるとどうなると思う」
脚部機動ユニット起動、直後に最大出力を叩き出して敵との距離を一瞬で無に帰す。
戦いはやがて蹂躙戦の様を呈す。観客の期待に沿うが為に。
*
「余裕があるがゆえに観客の期待に応えようとする少女」。
ほとんどの「少女」は生き残る為仕方なく戦っているようですが、ごく一部に圧倒的な力を与えられ、戦いと云うよりはほぼ一方的な虐殺・処刑ショーをしてショービジネスに貢献していたらな、と。生きる為の戦いでは出来ない演出や何かで観客を愉しませる役割をになっています。彼女たちは「少女」でありながら企業側の人間。武力で他のフツーの少女達の反乱を抑止ししています。というか存在そのものが威嚇です。とにかく体制の維持に貢献。その立場に至るには、勝ち続けるなり最初からスポンサーを掴むなり、手段は色々。胸中は当人たちしか知らないので、悪役か否かも色々。
そんな感じで書いてました。
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