2009年7月19日日曜日

ドッペルコンチェルト

ケーキに点した蝋燭を二人一緒に吹き消すのが、好きだった。今年は例年ほどには豪華なケーキは用意出来なかったけど、其の分所狭しと並んだ蝋燭15本、二人で消して祝い合ったのは僅かに数日前のこと。あたしたちは双子の姉妹。今、渇いた瓦礫の戦場で絢爛豪華な装甲纏い、崩れたビルの影から射撃で互いを「牽制」し合うあたしと、お姉様は。

殺人ショーで金を動かす「企業」は人の絆さえ食い物にする。参加したくもなかった此の戦い、二人の初陣の対戦相手が互いだと、戦場に立ってから知った。御揃いのドレスに御揃いの武器。殺し合うあたしたちがよく似た双子であることを売りにでもするつもりだろう。……癪に障る。

此の状況下でどちらかが相手を殺すことは物理的には易しいけれど、片割れを亡くして生きて行けるほどきっとあたしたちは強くない。優しくて愛らしいお姉様。同じ顔なのにあたしより幾らも美人な彼女は周囲にちやほやされていたけれど、底抜けに無邪気な彼女に不思議と嫉妬はしなかった。其れどころかどうしようもない泣き虫で、あたしが居ないと駄目な存在。そして彼女を守ることがあたしの役目。互いが互いの存在理由、どちらを欠いても成り立たない相互依存。
やがて身を隠すのをやめてこちらに近付く彼女はほら、今だってもう泣きべそをかいて、けれど其れも仕方ない。飛び道具を切らした以上、牽制し合う振りを装い時間を稼ぐ術がもう無いのだから。他に支給されていた、兇悪に過ぎる接近戦の武器。其の中では未だ幾らか大人しく見える高周波ブレードが今、彼女の白い手の中にある。あたしの手にも。ふたり、同じ決断をしていた。
「飽きちゃったよね」
「終わらせちゃおっか」
わたしが笑うと、彼女も泣き腫らした目で微笑んだ。以心伝心、と云うのだろうか。あたしたちは同じことを考える。一緒に蝋燭を消す時だって、「せーの」の合図なんて要らない。だから同時に振り上げた刃は、確実に同じ瞬間に互いの命の灯を消してくれる。

――身を貫く衝撃。

折れた刃が宙を舞う。放物線を描いて、落ちる。袈裟掛けに斬撃を受けてよろめくあたし。一瞬遅れて痛みを識った。世界が揺れる。派手な血飛沫。けれど其の様に目を瞠るお姉様に、傷は無い。其の手に血刀。折れたのはあたしの得物。
「なんで……」
込み上げた鮮血が言葉を奪う。伸ばされた腕に抱き留められた刹那、ふわり宙に浮く様な、自分の躯の異様な軽さ。重い音がして目を遣れば、地に崩れ伏した「わたしの躯」。胸の下で切断された傷口から血と共に零れ落ちてゆく臓腑が湿った音を立てて重なる。押し止めようとあがいたけれど、肘から先を皮一枚でぶら下げていた片腕を血溜まりに落としただけ。
絶叫は、声を成さない。
何故?同じ武器、同じタイミング、力だって変わりない。ただ、あたしたちに誂えられた見目には同じ装甲の、強度だけが格段に違った。
何故?同じ日に生まれ、同じ時を生きて来た双子の、あたしだけが死ぬ。
「どうしてこんな……」
お姉様、大好きなお姉様。優しくて、泣き虫で、美しい……美しい?嗚呼、そうだ。あたしよりも美しいお姉様。其の差異が生死を分けた?
「死なないで……」
どうして?お姉様の涙を見てもこんなにも心が冷える。嗚呼お姉様、泣き顔さえもお綺麗でお綺麗でお綺麗で……



何故だか理不尽な話が書きたくなりました。理不尽な。
愛憎だとか劣等感とかが好きなんです。(完全に趣味)

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